ダールワス・サーガ

バーバラ・ハンフリー、早川文庫FT

『そのような献身的な愛情を教えた覚えは

ないぞ、ジル』byインゴールド・イングローリオン


歴史学者の卵である女子大生ジルは、夜ごと悪夢にうなされていた。

奇怪な暗黒の生き物に追われて逃げ惑う人々、崩壊する都市、

そして青く深い目をした、一人の老いた魔法使い・・・。

一抹の不安を覚えながらも所詮は夢とたかをくくっていたある日、

唐突にその魔法使いインゴールドがジルの前に現われる。

その腕に、ダールワス王国の跡取りである幼い王子ティルを抱えて・・・。

事情を飲み込めぬまま彼らに隠れ家を提供したジルと、

そしてたまたまそこに立ち寄った自動車整備工の不良青年ルーディーは、

インゴールド達を追ってやってきた暗黒の生き物との戦いに巻き込まれてしまう。

なりゆきのまま、インゴールドたちの故郷の異世界に転移してしまった

ジルとルーディーは・・・

女性ファンタジー作家バーバラ・ハンフリーの代表作にして、

絶版からかなりの時間が経つものの、根強い人気を持つ異世界ファンタジーシリーズ。

以前から面白い作品であるという評判をよく耳にしており、

大型古書店をはしごしてようやく全巻を手に入れる事が出来ました。

現実世界の主人公たちが異世界に転移して、

ヒーローは勇者になり、ヒロインは王子さまと恋をして・・・

というのは異世界ファンタジーの黄金的パターンですが、

この作品はちょっと曲者。

異世界ダールワス王国にやって来たジルは女殺し屋になってしまい、

一方減らず口の不良青年ルーディーは、

インゴールドの弟子となってうら若き寡婦のアルデと恋をする事になります。

この主人公たちの逆転した設定ももちろんですが、

なんといっても最大の魅力は

真の主役とも言うべき茶目っ気溢れる大魔法使いインゴールド。

この老人の茫洋として捉えどころのない人柄には、

思わず引き込まれてしまいます。

(劇中におけるジルとルーディーの彼に対する絶対的な信頼と愛情も素直に肯けます)

もう一つこの作品の魅力となっているのが、

中世史の専門家である所の著者ハンフリーによるリアリティー溢れる

中世風都市の描写で、特に狂信的な宗教的権力の描写には背筋が寒くなるくらいの抜群の

説得力があります(よくある異世界ファンタジー物のリベラルな雰囲気の宗教組織の描写とは

あきらかに異なる厳格な教団の描写、特に神を信仰していながら一切の魔法を

悪魔の所業として禁圧しているという設定が面lor=lor=lor=lor=lor=lor=lor=lor=p>

ハンフリーの分身とも言うべきヒロイン・ジルの、異世界の歴史・地理に関する

人文科学的な考察は白眉です

(一応歴史家の端くれである管理人の目から見ても納得の論調)。

この思考実験というか、SF的なアプローチが破綻なく成立している所も、

稀有な面白い作品であると思います。

少々描写が細かすぎるというか、中だるみの感も無きにしろ有らずですが、

完結篇にあたる3巻のどんでん返しに継ぐどんでん返しの展開は、

中盤のだるさを吹き飛ばすくらい波乱に満ち溢れて面白いです。

数ある早川FTシリーズの中でも特にお奨めできる傑作の一つ、

読みたい方は是非古書店を回るか早川さんに復刊希望のお手紙を書いて下さい!

 

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