学位論文:
 半導体ビジネスのアーキテクチャと
   収益に関する研究

  学位:修士(商学)第10号
      (2005年3月15日)

  主査:根来龍之 教授
     (早稲田大学商学部)
  副査:井上達彦 助教授
     (早稲田大学商学部)
  副査:加藤みどり 助教授 
    (東京経済大学経営学部)

 口頭試問日:2005年1月29日




修論提出
(2005/01/11)

 2005年早々の1月11日が修論の提出日です.口頭試問は1月29日,審査結果は3月2日に告知されました.修論の内容は以下のような流れです.審査期間が2ヶ月とは少し長いかもしれません.いずれにせよ,この2年間の総決算となりました.我々ゼミの研究成果は「
早稲田大学 IT 戦略研究所のワークショップ」で一般公開され,IT戦略研究所の URL にも紹介されています.

上の写真は法科大学院の新校舎をバックに大隈像を撮影したモノです.なかなか良いショットと思いませんか? 新校舎はガラス張りのモダンな設計です.修論提出後のほんの一息,印象に残ったワンシーンです.我々商学部の学舎は,この横にある古ぼけた9号館でした.

<修士論文の概要>

 半導体は「産業の米」と言われ,20世紀後半からの技術革新のドライビングフォースを担ってきた.これほどまでに早い進歩を達成した技術革新はこれまでには無かったと思われ,インターネットに代表される情報通信の時代の基礎を築き上げたのも半導体の技術革新に依るところが大きい.経営との関連性を議論する技術の一つとして半導体を採り上げる理由は,情報化社会と言われる現状においてその必要性が高い為で,半導体ビジネスの経営学的見解と技術的見解の関わりにおいて,より正確に関連付けることが出来れば,実務的視点をも包括する経営学的な学術的見地が広がることが期待できる. 経営学的な学術研究は,工学的な学術研究に比較すると実務の視点が織り込みにくく,実務家の視点で納得出来るような経営学の研究成果を達成したいというのがその動機でもある.そう言った視点から本論文を議論できれば非常に意義深いと考える.

 昨今の半導体ビジネスは,「ムーアの法則」に代表される技術革新の早さに代表され,投資コストの増加,製品ライフタイムの短縮化,製品の需要供給バランスの不安定化(ボラティリティーの高さ)などが複雑に絡み合い,事業構造は複雑化を増す傾向にある.
収益性向上を目指した企業の生き残り戦略がめまぐるしく変化する現状に於いて,ビジネスで収益を上げることは容易ではなく,その収益を生みだす根源が何かを2年に渡り調査した結果が本論文である.研究手法は,5回に渡るNECエレクトロニクス社(以下,NEC-EL)への聞き取り調査を主としたフィールドワークをベースとし,そこから得られたサジェッチョンを過去の研究成果を踏まえて考察する事例研究の型を取っている.NEC-ELのヒアリングから得られた成果は,付録として添付したケーススタディとしてまとめている.その他半導体専業メーカー(ルネサステクノロジ,UMC, ASE)への聞き取り調査は計3回実施した.その結果として,以下に示すいくつかの研究成果を得るに至った.

 収益性を意味するビジネスモデルと事業構造を意味するアーキテクチャを包括する「
ビジネス・システム」を定義し,半導体ビジネスと対応付けると,その形態は大きく3つに分類される.垂直統合型で半導体製造に関わる全ての要素を有するIDM(Integrated Device Manufacturer:垂直統合型のデバイス製造),製造請負のみを行う Foundry,生産設備を持たずビジネスを展開する Fablessが挙げられ,Fablessは設計のみを自社に抱える設計特化型Fablessと,設計もアウトソースして製品コーディネートのみで自社ブランドの製品構築を行うコーディネート型Fablessに分類される.自社のアーキテクチャである「中アーキテクチャ」と顧客のアーキテクチャである「外中アーキテクチャ」を併せ持つIDMは,「アーキテクチャの位置取り戦略」を提唱する藤本のフレームワーク(2004)を用いた分析が有効に機能することが分かった.
 IDMは日本が得意とする半導体の垂直統合型事業構造であり,「中・外アーキテクチャ」を併せ持つ.ここに藤本の提唱する「
製品設計のキテクチャー」,「開発プロセスのアーキテクチャ」を「製造プロセスのアーキテクチャ」に組み込むと,アーキテクチャに顧客の視点が生まれ,ビジネスモデルとの融合が可能となる.また,新たな視点として技術先端度を加味し,「設計プロセスのアーキテクチャ」を加えることを提唱したい.これは先端製品では必ずしも「製造プロセスのアーキテクチャ」に「設計プロセスのアーキテクチャ」が含まれるとは限らず,「設計プロセスのアーキテクチャ」が独自に付加価値を有する昨今の最先端製品の特徴からも窺い知れる.この点においても技術先端度の視点が重要と考えられる.IDMは「製造・設計プロセスのアーキテクチャ」を示す「中アーキテクチャ」,製品群に対する「外アーキテクチャ」を3つのソリューションで示されるビジネスモデルと対比して考えると,アーキテクチャがビジネスモデルを包括する視点を有し,このような包括的視点から「ビジネス・システム」と改めて定義した.この「ビジネス・システム」は,藤本の提唱するような他の産業分野も包括する一般化を目指したフレームワークに比較するとより複雑な説明となっている.しかし,他の産業とは異なる特徴を有した半導体特有の産業構造は,その特殊性を議論するうえ占有化した考察が必要であると思われ,このような視点からアーキテクチャとビジネスモデルが融合できる可能性を示唆したことも本論文の特徴である

 以上の議論から,
半導体に特化して考えると,アーキテクチャの構造設計がビジネスモデルと連動しつつ収益に繋がると考えられ,藤本の提唱する「アーキテクチャの位置取り戦略」が収益と深く関わると言うだけではなく,アーキテクチャの設計そのものがビジネスモデルとなり,収益を生みだす源泉となり得ると考えられるつまり,「アーキテクチャの位置取り」もさることながら,「アーキテクチャの設計」自体が収益を左右する要因であると言うこと.そこでの設計パラメータの一つとして,技術先端度を挙げて説明を試みた.例えば,最先端技術をデバイス設計・製造に何処まで活用するか,最先端技術の適用は半導体ビジネスにおいて莫大な投資コストを伴い,その局面での投資判断は企業の将来を左右する程に重要である.自社製品の設計にどの程度の先端技術を用いるか,この視点に含まれる「製造プロセスのアーキテクチャ」,最先端製品では前者と分離して考えられる傾向の強い「設計プロセスのアーキテクチャ」,そして「開発のアーキテクチャ」を「製品設計のアーキテクチャ」の中でどのように構築するかが最終的な収益と連動していく最重要な視点と思われる.このようなアーキテクチャの連動は,IDMをベースとした垂直統合型ビジネスが得意である国内半導体メーカーにおいては,「外アーキテクチャ」に相当する顧客の視点と,「中アーキテクチャ」に相当する自社内製造の視点に対する最適化が必要であり,具体的にはカスタム品と汎用品の製品セグメントに対して先端技術度の適用をどのように設計するかである.ここでの答えはFoundry & Fabless を展開する海外メーカーとは異なることが予想される.国内半導体メーカーは国外半導体メーカーと同じ戦略では事業が成し得ないわけで,独自の戦略を立案することが大前提となる.

 学生時代を含めた20年の長期に渡り,半導体の研究・開発に携わった筆者の思考に対して,これまでとは全く異なる経営学の視点を織り込んだ本論文における研究の進め方は非常に新鮮であり,驚きでもあった.筆者を含む技術者の視点は,技術的アドバンテージを見いだすことに全勢力を費やし,その形は論文や特許の執筆,新製品の開発などが最終目的になる場合が多い.そこには収益を見据えた目標設定が行われないことも少なくないが,本論文で取り上げた半導体の「ビジネス・システム」の考え方は,そのような課題に対する答えを見いだすものである.別の言葉で表すと技術と経営の視点を融合することを示唆し,筆者の新たな学問的視点を広げたことが非常に意義深い.本論文での議論が半導体産業の新たな視点に展開できれば幸いである. 

(2005年1月10日 修士論文の提出前夜に)

今年の早稲田ラクビー部は幸先良く大学日本一,早稲田に入学以来2年連続で早慶戦を観戦,共に快勝で気分良く新年を迎えることが出来ました!